schedule
季節と肌

本のマイスターが選ぶ、フレンチシックな香りが漂う本3選

みんなの憧れ……芸術、食、そして恋の都、パリ! 読書の秋にちなみ、年間300冊以上の本を読んでいる、“本のマイスター”こと石井千湖さんに聞いた、フレンチシックな香りが漂うおすすめ本を紹介します。まだフランスへ行ったことがない人も、すでにフランスに魅了されている人も、これを読んだらまたフランスに行きたくなる……かも!?

30代女子の“これからの人生”にタメになる本

『パリ行ったことないの』山内マリコ著 1,728円(税込)/CCCメディアハウス

長年パリに憧れているけど、海外旅行すら一度もしたことがない35歳の予備校講師あゆこ、もうすぐ29歳になるというのに王子様がやってくるという妄想を捨てられない喫茶店店員のかなえ、50歳の誕生日を控えいつもの自分を見失いつつあるニットデザイナーのたえこ……。さまざまな理由でパリ行きを思い立ち、人生を変える10人の女性のストーリーになっています。

例えば、思うような職に就けず、結婚もしていないあゆこにとって、パリは現実逃避の手段だった……のですが、それがささやかな一歩を踏み出すことで、彼女の人生観が変わっていきます。

他の主人公もパリに目を向けることによって、人生に少しだけ積極的になれる……。10人の主人公が思いがけない場所に集合する、最終話「わたしはエトランゼ」までたどり着くと、晴れやかな気持ちになります。装幀や挿画も美しく、持っているだけでもうれしくなる本です。

フランスの文化に触れたい!

フランスといえば、歴史や文化も深い食について、情緒たっぷり書かれているエッセイを紹介します。読んだ後に「あ〜、食べたい!」って思うのは、私だけではないハズです。

『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』石井好子著 680円(税込)/河出書房新社

1950年代にフランスに渡ったシャンソン歌手のエッセイ集です。食生活を中心に、パリ暮らしの思い出を綴っています。下宿先のマダムが作ってくれたバターたっぷりのオムレツやレストランで食べたトマト色のクリームソースがかかったオムレツ、劇場主の家でごちそうになったスペイン風の卵料理など、オムレツだけでもバリエーション豊か。読んでいるだけで食べたくなってしまいます。著者が作った料理の簡単なレシピも載っています。

食べ物を描写する文章はやわらかく、ユーモアがあって、繰り返し読んでも飽きがきません。写真は載っていないのに、料理のおいしさが伝わってくる本です。

フランス人は夜よりも昼にご馳走を食べるとか、食文化の違いについて書かれているところも面白いです。ポトフなどは今では日本でも普通に作られているものだけれど、当時はまだ珍しかったそうですよ。

著者の石井さんは、食べたことのないおいしいものに出会ったら、「まずは自分で作ってみよう」と実行に移すタイプ(笑)。慣れない場所に行っても生活を全力で楽しんでいる様子に憧れてしまいます。

どっぷり浸かる、フランスの恋愛小説!

『うたかたの日々』ボリス・ヴィアン著 伊東守男訳 691円(税込)/ハヤカワepi文庫

肺に睡蓮が生えるという奇病に引き裂かれる恋人たちを描いた青春恋愛小説の名作。主人公のコランは22歳。働かなくても生きていけるくらいの財産持ちで、毎日することといったら、お洒落をしたり、曲を弾くとカクテルができるピアノをつくったり、友達を呼んでご馳走を食べることくらい。“恋をしたい”という望みも、デューク・エリントンの曲と同じ名前の美女クロエと出会った途端にかなえてしまう。ところが、クロエは不治の病を患ってしまったのだ……。

ボリス・ヴィアンは1940年代後半から50年代初頭にかけて小説や詩を発表し、39歳の若さで亡くなった作家です。中でも『うたかたの日々』は彼の代表作ともいえるでしょう。おとぎ話のようにキラキラとした世界が、恋人の病によって変化していくところが切なくもあり、悲しくもある。とても美しい小説です。

どうでしたか? ぜひ気分に合わせて、読んでみてくださいね。

取材協力 石井 千湖(いしい ちこ) ブックレビュアー

1973年、佐賀県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、8年間の書店勤務を経て、フリーに。現在、書評やインタビューを中心に活動中。執筆媒体は「読売新聞」「週刊金曜日」「週刊文春」「日経ウーマン」「DRESS」「小説新潮」「ジェイ・ノベル」「ドリームナビ」など。年間300冊以上の本を読むブックレビュアー。